2016年10月29日

おがくずパンを作ってみました

おがくずパンを作ってみました
さて、今回は夏コミの新刊でもとりあげました「おがくず入りライ麦パン」の話です。

やや濃いめのドイツ軍をかじった人なら「おがくずの入ったパンの話」は聞いたことがあるかもしれません。
「大戦末期、もしくは捕虜収容所などで木くず(おがくず)の入ったパンが食べられていた」という話ですね。

様々なレシピにチャレンジしてきたクッキングナチですが、このレシピはさすがに考えちゃいました。
だって木くずって食べモノじゃないんだもん(笑)。

おがくずパンを作ってみました
ずっと考えていたのが「ふすま(小麦の表皮部分)などのパンの誤訳では?」ということでした。
誤訳がトンデモ話になるってのはよくあることで、有名なのは「シンデレラのガラスの靴」なんてのがあります。
このシンデレラ、ヨーロッパの民話をベースにして作られた話なんですが、ベースとなる話を聞いた時に「リス皮の靴(vair)」を同じ発音の「ガラス(verre)」と間違えたというものです。
※ペロー誤訳説が有名ですがもともとガラス版とリス皮版の2種があるという説もありますな。

また、第二次世界大戦ではゴボウを出した日本人に対してアメリカ人が木の根だと思い込み、戦後の戦犯にさせられてしまったなんて話もあります。

しかし、いろいろと調べてみると食事に木が使われているという話がいくつか出てきます。
第一次世界大戦ではあまりの食料難で木くずでクッキーができないか?と真剣に検討されたりしたし、旧いヨーロッパの山奥ではやはり手短にある木くずでパンを増量していたという話もあるようです。


日本でも、籠城時に城の土壁を崩して食べたなんて話も出てきますし、もしかしたら通常にはなくても、異常事態の食料としておがくずの混入したパンというのはあったのかもしれません。

スターリングラードのドイツ第6軍はソ連軍に包囲され、食料不足から最後は木くずで増量されたパンが出てきたとか椅子を削ってパンに入れたなんて記録もあります。

その辺を考慮して、今回はこの「おがくず入りパン」という食べ物がありなのかを実証試験をしてみましょう。

今回はさすがにレシピというのは見つからない。そりゃそうだ、こんな非常時のレシピが残っているのは難しいだろう。
でも、ググったらこんなレシピが見つかった。1841年のドイツの捕虜収容所のパンのレシピだ。
http://www.theoldfoodie.com/2011/03/sawdust-bread.html

(原語)
There is a recipe for bread containing ‘tree flour’ for the use in prisoner of war camps, which is said to have been published in Germany in 1841. It sounds grim.

Black Bread.
50% bruised rye grains.
20% sliced sugar beets.
20% tree flour (saw dust).
10% minced leaves and straw.

(機械翻訳版)
それは厳しい聞こえる1841年にドイツで出版されていると言われている戦争キャンプの囚人で使用するための「木粉」を含むパンのレシピがあります。

黒パン。
50%打撲ライ麦粒。
20%スライスしたテンサイ。
20%の木粉(おが屑)。
10%ミンチ葉や藁。

これをみるとパンの材料は50%しかありません。政治の世の中なら政権とれないレベルです。
テンサイはカブラの冬でおなじみのカブラ(西洋蕪)でしょうか?
葉と藁が同じレベルで入ってるのも強烈ですね。

さすがにこれは厳しすぎますが(経験上、葉や甜菜のような水分の含んでいるものはかなり難しい)、2割くらいのおがくずを入れたレシピがあるということがわかりました。
Kパンやライ麦パンを作ったきた自分の経験で考えると、ライ麦パンは2割くらいは別の粉を入れてもいけそうな気がします。

2割くらいを目標におがくずをぶっこんでパンを焼いてみましょう。

おがくずは今回知り合いの林業をやってる友人のベルクさんより直接仕入れました。
おがくず自体はホームセンターで売っておりますが、残念ながら「食用」ではありません。

相談してみたところ、機械油などが入る可能性もあるのでチェーンソーは使用しないほうがいいかというアドバイスもありまして、電動カンナでおがくずを作っったそうです。

おがくずパンを作ってみました
これがそのおがくずです。シイとスギで2種作ってくれました。
枕にするくらいの量があります。たぶんこれ全部食べるとカミキリムシになれそうな気がします。
もし、これにチャレンジしてみたいという方がいましたら、生木をのこぎりなどで引いておがくずを作成することをお勧めします。

おがくずパンを作ってみました
で、そのカンナで作った木くずを見た目で2割弱くらい入れたのがこれ。
非常にわかりやすく木くずが見えております。

食べてみましたが歯に木くずがはさまる。口の中に割りばしのようなにおいがいつまでも残る等々かなり最悪な感じです。
さらに大きな木くずのあたりに十分な火が入っていないようで、いつもより早くかびてしまいました。

スターリングラード的にはリアルかもしれませんがちょっとこれでは食用というにはあまりにもきついです。

同じ材料でもう少し手を入れて常食できるものが作れるのかどうか検証してみましょう。

おがくずパンを作ってみました
今回はふるいにかけておがくずを粉状にしてみます。
さらに衛生面を考慮してフライパンで軽く炒ってみました。
こうしてぱっと見はふすまの粉と似たようなものになりました。

難しいのはライ麦粉とおがくずは重さの比率が違うので、グラムで2割というのはかなり難しいですな。

おがくずパンを作ってみました
30グラムでこれくらい。ライ麦比率としては一割弱ですが、フライパンいっぱいなのでかなりすごい量です。
手前にあるライ麦粉と同じ量なんですよ。

おがくずパンを作ってみました
これをいつもと同じように作ったパン種にドバーッとぶちまけて練り上げます。
せっかく作成したパン種が一気に台無しになる感じ。とほほ。
なんかうっかり図工室で床に落としたようなパン種になって泣けてきます。
これを食わねばならないのか.....orz

でも、不思議なもんで発酵させるとちょっとはましになってきます。

おがくずパンを作ってみました
焼くと一見いつものパンと同じ形でライ麦のいい香りが漂ってきますが、切ってみるとやはりいつもとは違うものが入っています。

おがくずパンを作ってみました
微妙に色の違うのがそれですね。

クッキングナチではグラム換算でライ麦380g、ウルマフォルサワー40gに対して30gのおがくずを上限として入れてみました。

パン種に入れる水の量等を調整すればこれ以上入れてもパンにはなると思いますが、いつも通り2食で一斤食べるのはこの辺でやめといたほうがいいと思います。

といいますのも、
一切れ位ならちょっときついなぁくらいですむのですが、300g程度食べようとすると途中から「胃からものすごい違和感」がやってきます。
「ちょっとー!今食べてるやつパンとか言ってるけどパンじゃないでしょ?」って体が訴えているようです。
この違和感を無理やりスープで流し込む。こりゃーつらいなー。
やわらかいおかずがあると涙が出ます。会社用弁当のおかずにオムレツを持って行ったときなどはあまりの旨さに感激してしまいました。

おがくずパンを作ってみました
これは会社にもっていったスターリングラード弁当。
スープはザワークラウトのスープ。コーヒーは大麦の代用コーヒーです。
一人で黙々と食べていますので周りから見ればパンとスープを食べてコーヒーを飲んでる人にしか見えないという状態です。

おがくずパンを作ってみました
例の野菜くず入りパンをイメージしておがくず以外に八宝菜を入れてみたものなんかも作ってみました。

夏コミのネタにしたかったので6月あたりはこんなものばっかり食っていました。
うん、今回ばかりは正直つらかったよ。

というわけでいろいろと作ってみたおがくずパン。

結論としては「おがくず入りライ麦パンは食べ物としてかなりぎりぎりだけど食べられないわけじゃない」ただし、全くお勧めしない。
でも、半年間実験してみて6斤くらい食べてみましたが一応直ちに身体に影響はないようです。

おがくずパンを作ってみました
スターリングラード気分を味わいたい方は自己責任でよろしくお願いいたします(笑)。

※レシピに関してはコミスブロート作成方法の小麦粉の代わりにおがくずを入れてください。あとは同じで問題ありません。
 水加減は小麦より給水しやすい割には固まらない傾向があるようなので硬くなりすぎないように注意してください。




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Posted by さめ ひろし  at 20:45 │Comments(6)パン作り

この記事へのコメント
白樺のルブといってロシアでは皮と木の間をたべていたらしいですが、もしかしたらそれなのでは?
Posted by かな at 2019年03月16日 09:24
ご返事がめっちゃおくれてすみません。
皮の間のあれを食べる話は私も聞いたことがありますが、それとは別物だと思います。

それなりに世界中で行われているらしく
https://translate.google.com/translate?hl=ja&sl=en&u=https://en.wikipedia.org/wiki/Sawdust&prev=search
原文
https://en.wikipedia.org/wiki/Sawdust

海外のWIKIには「パンの充填剤として」という用途がかかれております
Posted by さめ ひろしさめ ひろし at 2019年08月03日 10:50
>日本でも、籠城時に城の土壁を崩して食べたなんて話

これ骨組みのつなぎに保存食にもなる芋がらとか干ぴょうを使ってあるというやつでは・・・
Posted by   at 2019年08月16日 19:08
おがくずの分量について。
パンにもドイツにもレシピにも詳しいわけでもないんですが、見たことのある海外のレシピだと、粉類はたいていカップいくつ、匙いくつとかの分量でやってるものが多い気がします。
なので重量じゃなくて、例えば麦粉5カップのところを麦粉4カップとおがくず1カップにしたとかじゃないかなと。
Posted by 通りすがり at 2019年12月25日 10:41
ちょいと古い記事なのでいろいろと訂正とレスです。

0803パンの充填剤という話
パンの増量剤ともいうべきかき方をしており、実際そう思っておりましたが、訳が充填剤なので、おそらく、パンを詰めるときのパッキングに使用という意味なのかなーと最近考えをあらためました。

0816 名無しさん
話の枕としてすごい端折ってしましましたが、熊本城等の「初めから食べられるように食材を練りこんだ城の土壁」の話でした。ご指摘のとおりです。

1225 通りすがり様
このころは粉と水を安定して使用するにははかりを使用して重量管理するのが一番と思っておりましたので、すべてを重量によって書いてあります。
こういうあまりにも重量の違うものの場合は、ご指摘のとおり容量管理したほうがよさそうで、おそらく当時も計量カップで計測されていたと思います。
それでもおがくずの場合、軽いので詰め具合によって差が出てしまうという欠点があります。
まぁ、おがくずにそこまで正確なレシピが必要とは思えないのですが、実際に作られる方は徐々に混入させながら生地の出来具合で判断したほうがよろしいかと思います。

相変わらず数か月に一度のまとめレスですが皆様ご指摘ありがとうございました。
Posted by さめ ひろしさめ ひろし at 2020年01月06日 00:26
別のところでおがくずパンのネタをみかけ、検索して流れ着きました。

>>でも、半年間実験してみて6斤くらい食べてみましたが一応直ちに身体に影響はないようです。

細かな考察と検証、そして実行力・・・たくましすぎる。初めて伺いましたが、最大の尊敬の念をささげたい。

これからもお体に気を付けて頑張ってください。
Posted by ななし at 2022年09月29日 20:49
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